シューベルト作曲の歌曲集『冬の旅』より、“氷結”をご紹介します
この曲は、昨年開催した「後藤未穂×Kalmia ティータイムコンサート」でも演奏した曲ですので、記憶に残っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
歌曲集『冬の旅』は、シューベルトによって1827年に作曲されました。詩はドイツの詩人、ヴィルヘルム・ミュラーによって書かれており、全24曲からなる連作歌曲集です。
この歌曲集は、結婚まで考えていた恋人に失恋した若者が、二人の思い出が残っている町を捨て、さすらいの旅を続けていくという内容です。
旅を続けていくうちに、若者は失恋の痛みや苦しみを経て、社会からの疎外感、厭世観を感じるようになり、死を求めるようになっていきます。
“氷結”は『冬の旅』の4曲目にあたります。ドイツ語のタイトルではErstarrungとなっており、辞書で引くと凍結・凝固・硬直など、いくつかの単語が出てくるので、他の楽譜などでは違った表記になっているかもしれません。
実は歌詞の中にこのタイトルの言葉が出てくるわけではないので、Erstarrungというタイトルは何を象徴しているのか、演奏家はイメージしておく必要があると思います。
私はこの曲を聴いた時、フリーズドライされていたはずの恋人への未練が、ふとしたきっかけでせきを切ったようにあふれ出している、という印象を受けました。
自分の涙で氷や雪を溶かすほど地面に口づけしたい、せめて2人の思い出だけでも持っていきたい、など、若者の熱い思いが爆発しており、この歌曲集の中で最も激しい曲ではないかと思います。
この曲は歌詞の繰り返しが非常に多く、ピアノパートも3連符のリズムが途切れることなく続いています。恋人への未練をなかなか断ち切れない若者の苦悩をあらわしているようです。
同じ悲しみの表現でも、ヘンデルの“私を泣かせてください”が女性的な表現であるのに対し、“氷結”は非常に男性的な表現です。それぞれの違いもお楽しみいただければ幸いです。